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2020/06/17
岳沢小屋を含む槍穂高連峰の山小屋の営業開始、そして夏山シーズンの開幕時期まであと1ヶ月ほどとなりました。重太郎新道の雪もあらかた消え、地震の影響も気になるところで、まだ日本アルプスの山には登ったことがないという新人を連れて、今シーズン初めての前穂高岳まで様子を見に行ってきました。
さて、4月下旬から始まった上高地の群発地震。岳沢や上高地から視認しても青色で囲んだエリアの山肌の崩落が目立ちます。聞くところによれば、このあたりが震源地が集中するエリアだそうで、なるほど実態と一致してます。その余波を受けてか、赤丸で囲んだ明神岳周辺でも崩落、落石が頻発しています。
こちらは去年の今時期の岳沢小屋から見上げた奥明神沢です(右上が明神岳)。例年であれば4月末の小屋開けから6月の梅雨入りの頃までは前穂を目指すメインルートとして賑わうこの雪渓ですが…
今年の奥明神沢はこんな感じ。
崩落や落盤で雪渓が埋め尽くされています。今年がコロナウイルスの影響で、ここを利用する登山者がいなくて本当に幸いでした。同じような状況がバリエーションルートでありますが、明神主稜や東稜でも言えるかもしれません。夏にこのエリアへ入山されるかたはご注意ください(特に明神5峰から下はズタボロだと思います)
一方、茶色の丸で囲んだ西穂高岳から間ノ岳、天狗の頭のエリアでも毎日絶えることなく落石の音が響いています。聞くところによれば、西穂~天狗の頭の飛騨側エリアも震源が集中するエリアだそうです。果たして西穂~奥穂の縦走路はどうなっているのでしょうか?個人的にはこのルートは元々、道が有って無いようなものですから、多少の崩落などがあったとしても尾根筋の道は通行不能なほど荒れてはいないのでは?と思っています。ただし、天狗沢は例年に増して落石の巣となっています。8月に入って天狗沢の雪が解けると、ジャンダルム~奥穂高岳の最短ルートとして上級者に人気の高い天狗沢ですが、今年はいつもに増して落石に関してリスキーな状態となっています(利用は控えるほうが賢明)
さて、お待たせしました、重太郎新道のお話しです。
小屋を出発して10分、キャンプ場を過ぎると、いきなりこんな大きな落石が3つ、行く手を阻んでいます。こんなものは動かしようもありませんし、跨いで越えられないほどではないので頑張って跨いでください。
ここからしばらく、お花畑の広がる「ジグザグ」と呼ぶ斜面が地震の影響の大きなエリアです。元々、上部に地盤の不安定な斜面抱えていて落石の多いエリアではあったのですが、今年はその数が半端ありません。どうしても危ない石や越えられない段差は直してきましたが、全ての落石を除去するのはあまりにも果てしない量なので登山者の皆さんには頑張って登ってもらいます。
通常よりも歩きにくいとはいえ、通れないほどではないのでご安心ください。ただし、今後も落石の危険はありますので上方には注意を配り、速やかに通過されるようお願いします。(ここが重太郎新道で地震の影響が一番色濃いエリアです)
この長い鉄梯子を過ぎると状況は落ち着きます。(多少は大小の落石が転がっていますが)
元々、この梯子~カモシカの立場は岩が不安定に積み重なり、遭難事故も多い場所でした。決して歩きやすいとは言えせんが、例年と大差ない感じの難路です。くれぐれも慎重に歩いてください。
カモシカの立場を過ぎてすぐ、広い沢地形をトラバースする部分も荒れています。ここも元々不安定な斜面で、落石や土砂の出やすい場所です。慎重に歩けば問題ありませんが、上方からの落石には十分注意を払ってください。
その足元の悪いトラバースを過ぎれば、岳沢パノラマ、
雷鳥広場までは多少の影響はあるものの、例年と変わりない感じで歩けます。特段問題となるようなところはありません。相変わらず浮石は多いので気を付けて歩いてください。
雷鳥広場を過ぎてしばらく、小さな鞍部に下りる数段の鉄梯子のあたりからはしばらく落石が多くなります。この写真…
赤丸にあった岩盤が2つに割れながら、登山道に落ちてきました。
人が歩いている時にこんなのが落ちてきたら逃げようがありませんね。人間は擦り潰されることでしょう。
鉄梯子を過ぎてもしばらくは上部の不安定な斜面から落ちてきた大きな石が登山道上にゴロゴロしています。歩き辛いほどではありませんが、ここも岩が落ちてきたら避けようがありませんので、足早に通過しましょう。
紀美子平に至る長い鎖場まで来ると落石の危険は去ります。ここからはゆっくり登って大丈夫でしょう。この先、紀美子平~山頂までは特段普段と変わりなく、地震の影響は感じませんでした。とはいえ、とても道とは言えないような急な岩場が続きますので、気を付けながら頑張って登ってください。
山頂に辿り着けば、槍ヶ岳と涸沢カール、
そして、奥穂、西穂の峩々たる景観が迎えてくれます。
さらに目を南に転ずれば、岳沢から上高地、乗鞍岳へと続く優しい曲線を描く風景…
前穂の風景はやっぱり槍穂高随一ですね。
再度、重太郎新道での注意点をあげると
・全般にルート上に落石が多く、いつもよりは多少歩き辛い
・重太郎新道下部のお花畑のジグザグの区間が荒れており、なお上方からの落石に注意が必要
・カモシカの立場の先のトラバース部分も上方からの落石に注意
・雷鳥広場の先、鉄梯子~鎖場に区間は落石に厳重注意
そんなところでしょうか。
ちなみに今日は割と揺れています(笑)
(割と揺れている程度で、被害が拡大するほどの揺れではありません)
ホント、夏までに完全収束してくれるといいんですけどね。
あと、紀美子平から吊尾根に至る区間はまだ残雪が多くて、アイゼンとピッケルがないと通行できませんが、7月15日頃には雪も解け、通行には問題ないと思います。(穂高岳山荘~涸沢間は7月20日頃までは残雪状況微妙ですので、涸沢の小屋などへ確認をしてください)
以上、長々と長々とお伝えしたのは小屋開け以来、岳沢小屋のヘルプに入っていました南岳小屋担当です。2ヶ月間の勤務を終了し、明日で岳沢の任を解かれます。
毎年、GW・5月は奥明神沢や奥穂南稜、コブ尾根などの難路を目指す登山者の楽しそうな様子、下山後に生ビールで乾杯する皆さんの様子、岳沢小屋まで雪の穂高を間近に眺めに来て楽し気な人たちの様子を見るのが大好きだったんですが、結局この2ヶ月、ここではスタッフ以外の誰も見かけることがありませんでした。来年はまた楽しい穂高の残雪期シーズンになることを願っています。