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槍沢登山道及び南岳新道は復旧しました(7月11日)

 6月30日から7月1日にかけて降った大雨により被害を受けた槍沢の登山道ですが、応急的な作業が完了した為、7月12日より通行規制は解除されます。
ただし、今回は暫定的な措置に留まる箇所も多く、通常よりも難易度が上がり、今後の雨で再び被害を受ける可能性もあります。
通行する際は、ご自身の判断と責任の元、行動されるようお願いいたします。

 今回、槍沢の登山道では7ヶ所において崩落や登山道の流失といった被害が出ました。その他にも、倒木や落石は多数あります。
ベテランのスタッフ曰く、ここまでの被害が出たのは1995年の大雨の時以来ではないかとのこと。
川の水量が多い今の時期では本復旧の為の作業ができない箇所もあり、渇水期となる秋に再び作業を行うことになりそうです。

 現時点で通行に注意すべき暫定復旧箇所は3箇所ありますので、それを以下に説明いたします。

 まずは槍見河原のすぐ手前の沢です。元々は下の写真のように、3メートル程度の丸太橋が架かっている苔むした明媚な沢でした。

 それが、被害を受けた後は以下の通りです。

 堆積した土砂や、もしかしたら上部の残雪により、鉄砲水のような状態になったのでしょうか。元々の登山道は吹き飛ばされてしまっています。
 大量の土砂を動かして整地する作業は我々だけでは行えない為、今後行政とも連携して本復旧に向けた作業を行いますが、現時点では歩けるように土砂を均し、石積みで階段を作り、流木を活用して橋をわたしています。

 あくまで暫定的な対応です。この橋は生木ですし固定が難しい為、今後流されてしまう可能性もあります。橋の上を歩くのが怖い方は、橋を手すり代わりに使って横の石の上をつたって渡るようにしてください。

 

 続いて、ニノ俣から槍沢ロッヂへ向かう途中の箇所です。ここは本来、写真の矢印の通り梓川沿いに登山道がありました。川のせせらぎがよく聞こえる場所で、川の中をよく見るとイワナを見つけることもできました。

 ある程度水量が落ち着いた後の写真ですが、蛇籠は流されてしまい、登山道が30メートルにわたって水没しています。
再度蛇籠を組んで石積みをすれば復旧することはできますが、川の水量が減らなくては作業ができませんので、恐らく本復旧は渇水期になる秋となる見込みです。

 その為、上部に巻道を造成して通行できるようにしました。急斜面なため、登山道補修用に用意してあった丸太を活用して木橋を設置しています。

 こうした構造物は恒久的な措置とはなり得ませんし、さらなる崩落で崩れてしまうリスクもあります。通行の際はよく確認して通るようお願いいたします。


 写真だと分かりにくい為、実際に通った時の様子を動画にしています。

 

 次はそのもう少し上の箇所です。

 こちらも、雨によって登山道が崩落しています。この場所が被害を受けることは想定していませんでした。
登山道は本来、写真の手前にあるように、川よりも数メートル高い位置にありましたが、増水した川によって下部を抉られ、崩落してしまいました。

 ここも当初は巻道を造成することを試みましたが、斜度が急すぎたこともあり雨によってすぐに巻道が落とされてしまった為、崩落が落ち着いてから川沿いに道を作り直しました。

 この場所は、山側では少しずつまだ土砂が落ちてきており、大雨が降ればそれなりの規模で再び落ちる可能性があります。川沿いですので、増水すれば道ごと持っていかれる可能性もあります。
今後、悪天候時の登るか登らないかの判断を、よりシビアにしていただく必要があるでしょう。

 

 

 槍沢の登山道の状況については以上ですが、南岳新道においても、並行して登山道補修の作業を行なっていました。
こちらは雨によるものなのか雪によるものなのか原因は不明ですが、現場は南岳小屋から槍平小屋に向けて下りること15分程度の場所です。
元々掛かっていた橋が、土台となる箇所が崩れてしまい落ちかかっていました。

元々の橋
落ちかかってしまった橋

 なんとかチェーンブロックで引き上げ、支点を作って補強して架け直しましたが、土台となる箇所が崩れてしまった為、明らかに従来よりも脆弱です。

 谷側に荷重をかけたくないので、角材は山側にしか乗せていません。橋を渡らなくても通せるよう、ロープを張って上部を岩づたいにも歩けるようになっていますが、難易度は非常に高いです。

 元々メジャーなルートではありませんが、慣れてない方にお勧めできるルートではありません。
特に下りでの利用は従来からお勧めしていませんが、より慎重な判断が求められます。
できる限りこれからも手を加えますが、これ以上の復旧は我々の手だけでは難しい為、行政の力が必要となります。
岐阜県側ですので、今後高山市さんにも協力を要請したいと思います。

 槍沢も南岳新道も、今後状況について変化があればブログで発信していきますので、そちらを参考になさってください。

 

 

 それにしても、今回はスタッフの皆んなが本当によく頑張ってくれました。
槍沢については、最寄りの槍沢ロッヂだけでなく槍ヶ岳山荘のスタッフも集結し、連日天候も優れない中、1日でも早く道を通せるよう作業をしてくれました。
南岳小屋は支配人を中心に、危険な箇所で風が吹き荒れる中で作業を続けてくれました。中には槍沢で作業をした後に、南岳へ移動して作業をしてくれたスタッフもいます。
また、多くの人が抜けた小屋で、本来やるべき仕事をこなしてくれた小屋に残ったスタッフにも感謝したいと思います。

 この文章を読んでくださった方は、是非この状況について情報の拡散のご協力をお願いします。
通行できなくなったという情報は話題性がある為、メディアでもSNSでも取り上げられ拡散されます。それに対して通行できるようになったという情報は、それほどニュースバリューもなく拡散されません。
その為、通行止めという認識のままでいらっしゃる方が多く出てきてしまい、槍沢を通る登山を避けられてしまいます。
せっかく一生懸命復旧活動を行なったにも拘らず、人が通らなくてはその頑張りも報われません。

 ただ、冒頭に申し上げた通り、通常よりもリスクが高まっている状況ですので、「安心してお越しください!」とは言えないのですが、そうした状況も含めて拡散して頂けると嬉しいです。

開通後のガッツポーズ!?

 大雨による被害を受けた後、地元自治体の松本市と環境省が迅速に現地を視察し、今後の対応について一緒に検討してくださっています。
 この山域における登山道の維持活動は、我々山小屋が単独で行なっている訳ではなく、行政や我々山小屋を含む民間から成る北アルプス登山道等維持連絡協議会の活動として行なっています。
こうした行政との連携は今後も深めていく必要がありますが、今回の大雨のように、気象状況等によって登山道の維持活動は従来よりも困難になっています。


 まずは利用者の方々にそうした現状を知って頂くことが重要だと思いますし、その上でできる範囲で協力をお願いしたいと思います。
協力というのは何もお金を払うことだけでなく、登山道を傷めないように歩く、無雪期にはストックにキャップを付けるといったこともそうですし、情報の拡散や悪天候の際に無理な判断をしないこともそうです。
 詳しくは北アルプストレイルプログラムのページをご確認ください。