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穂先へ。

こんばんは、槍スタッフ肥沼です。
山荘南斜面の分厚い氷との最終戦争がようやく幕を下ろしました。
まもなく帰ってくる休暇中の杉山支配人を喜ばせたくて、夕飯の準備を捨て、総員でやり倒しました。
辺り一帯には魚市場よろしく足の踏み場もないほど砕けた氷が大量に散らばり、出来ることなら長野県のふるさと納税の返礼品にしたいぐらいです(需要が見込めぬことは確信できる)。

ボッシュのハンマードリルには、さしもの半年かけて成長した氷たちも、なす術もなく砕け散っていった。
やはりドイツの工業製品は最高だ。
氷層共よ、世話になったな。観念して梓川のひと滴となるがいい。

さて、第1陣入山から約ひと月が経過。
当初はあたかも人類の生き残りを賭けた戦いのような、鬼気迫る勢いで、凍てついた山荘を叩き起こす日々でしたが。
水、電気、ガス、通信等のライフラインが安定し、物質的なQOLもほぼ下界と遜色なくなった現在では、その勢いも減衰し、徐々に課される作業も緊急度の低い、消化試合然としてきました。
おかげでアドレナリンにモノを言わせる様な生活から一転、気候の推移も手伝い、最近ではどこか麗かに日和った暮らしに甘んじております。
判子で押したような、輪郭のない生活にならぬよう、お茶や食事の場所を変える等、ささやかなレクリエーションを織り込み、気分を変える努力をしてます。

雪上の青空食堂。
調理はともかく会場への配膳が困難である。
いわば質素なおままごとだが、当人らは思いのほか楽しい
片付けがなければ言うことないのだが。

その一環として昨日、休憩時間を利用し、穂先へ登ってきました。
足しげく通っているように思われがちだが、近すぎる故にか滅多に登らないものである。
地元の観光名所への関心が薄い心理と似ているかもしれない(おおいに個人差あり)。

たまには高い位置から見下ろして確認しないと、自分が普段どんな場所に暮らしているか分からなくなる(笑)
槍ヶ岳山荘は宿泊施設というより要塞という言葉がしっくりくる。
それは大喰岳方面から見ればなお顕著だ。
このアナウンスが必要な人はほとんどいないだろうが念のために。
もはやアイゼンがない方が安全なくらいに大半が溶け去っているが
中腹の雪田だけは依然として必要である。

槍ヶ岳よ、私は帰ってきた。
ゴープロで撮影すると浮遊感が割り増しになる。
有り体に言えば天空にいるような、もっと言えばあの世への途上であるかのような。
この日の夕日。裏の作業用足場から。
避雷針より
撮影:スタッフ四宮